ウィル空間デザインの森田です。
木造一戸建ての2階洋室約6帖をバンド練習用に防音室へリフォームする、その工程を紹介します。
そもそも音漏れは「発生音ー遮音性能=外部へ漏れる音」で、遮音性能を上げれば外部へ漏れる音は少なくなります。が、性能を上げれば費用も上がるため『どの程度まで防ぐか』をまず決める必要があります。
今回は大建工業の建材を使用。シンプル(30dB軽減)、スタンダード(40dB軽減)、プレミアム(50dB軽減)と3つのランクがあります。ただし、ドラムやベースは低音域が強く、壁や床などを伝う固体振動音(固体伝播音)もあるため、遮音性能は-10dB程度悪化すると言われています。そのため、遮音性能50dBのプレミアムを使用しても40dB以下の遮音性能しか得られません。お客様へ上記内容をご理解頂いた上で、発生音を約100dB(例:若者のくしゃみ、地下鉄構内、庭先の犬の鳴き声)と仮定し、どの程度音漏れするかを算出。
<スタンダード(約40dB軽減)使用した場合>
発生音約100dBー遮音性能約40dB=外部に漏れる音約60dB(例:普通の声、小さな咳払い、いびき(中)、教室内自習中、水洗トイレの音、潮騒、夕立)
<プレミアム(約50dB軽減)使用した場合>
発生音約100dBー遮音性能約50dB=外部に漏れる音約50dB(例:小さい声、事務所内、都心の住宅地昼、小鳥の声、木々のざわめき、小川のせせらぎ)
今回お客様はプレミアムを選択。工期は約1ヶ月、費用は約300万円でした。
室内に壁、床、天井を追加して音漏れを防ぎます。マトリョーシカ人形のように『部屋の中に部屋がある』イメージです。
まず、木造家屋の壁は外から外壁→断熱材→石膏ボード→仕上げ(クロス、漆喰、ペンキなど)と作られていきます。
このお宅では既存壁の上に吸音ウール→ベニヤ板→吸音パネル→吸音ウール→ベニヤ板→吸音パネル→布クロスを施工しました。
<見取り図>
内側の壁は追加する防音壁です。図の左側にはスリット窓が2つありますが防音性を高めるため壁にします。窓も二重にしますが『外側の窓と内側の窓の間は40cm以上開ける』『ガラスの厚みは倍数にならないようにする』など細かな注意点があります。今回は外側の既存のガラスは厚さ3mmだったため、内側は倍数にならないよう厚さ5mmのガラスにしました。
また気密性の高い防音室には換気扇の設置が必須です!ダクトが短いと音漏れしやすいため、ダクトが長くなるように配管します。
まずは換気扇の取り付け準備。
既存の壁に間柱を打ち付けます。
間柱と間柱の間に吸音ウールを充填。
入隅(いりすみ)や出隅(ですみ)には遮音シートを貼ります。黒いのが遮音シートです。
壁(面材)を重ね張りする際には隙間から音が漏れないよう目違い張りにします。遮音性の高い建材を使っても、こうした手順を守らないと意味がありません。
石膏ボード、遮音パネルを張り一つ目の壁が完成。パネルとパネルの隙間も気密遮音コーキングで塞いでいきます。とにかく隙間は埋める・塞ぐ・作らない!
二回目の吸音ウール充填。この後入隅(いりすみ)出隅(ですみ)に遮音シートを貼ります。
石膏ボード、遮音パネルを張ります。
遮音パネル(オトカベS-3)の表面には無数の小さい穴が。仕上げに吸音性の高い布クロスを施工します。
ちなみに床は吸音ウール→合板→遮音マット→合板フローリングの順に施工します。(施工中の写真はありません)なお、下階はダイニングキッチンと洗面室、浴室です。
天井も壁と同じように、既存天井→吸音ウール→石膏ボード→遮音パネル→吸音ウール→石膏ボード→遮音パネルと重ねていき、フラット型のオトテン3、波型で空洞のあるオトテン200Wで仕上げます。
防音室は演奏を楽しめるよう残響も大切で、音を跳ね返す『遮音』と、音を吸収する『吸音』のバランスも数値化し、天井の面積比をオトテン200W/オトテン3が1:2になるよう施工する必要があります。
完成後・部屋全景
部屋を入って右手にはクロゼットがありました。ポールだけ残しましたが「譜面台」を吊るしたりと使い道は色々。
こんな角度で、窓に向かって練習しているそうです。
出窓のスペースはコレクション置き場に。
「出窓の厚みがすごい!おかげで外から耳を澄ましても、まったく音漏れがありません」
満足していただける防音室が出来ました。